遺言があれば後は全て安心というわけではありません。執行手続きの遅れが思わぬ事態、紛争等を招く恐れも。

いつもご覧いただきありがとうございます。

以前のお知らせで遺言委執行業務によりご相談者さま方だけでなく、私たちも胸を撫で下ろしたとの記事を書かせていただきました。
その理由は遺言者(故人)が公正証書遺言を用いて法的に有効な権利継承の意思を伝えていたとしても、場合によっては事態が思わぬ方向へと向かう時もあるからです。
いくら公正証書遺言で指定された執行手続きであっても、後は全て安心とゆっくりしていてはいけません。

例えば包括遺贈の受遺者(法定相続人以外)となった者が、当該不動産の所有権移転登記前に、法定相続人が所有権移転登記を先に済ませていた場合、どのような結果となるのか?

この問題は公正証書遺言による包括遺贈」「法定相続人による先行登記」がぶつかった典型的なケースであり、不動産の登記を巡る実体的権利と対抗力(第三者に対する主張力)の衝突がテーマです。以下にその法的結果対応策予防策を詳しく解説します。


目次

1.先に相続人が登記した場合の法的な結果

包括遺贈の受遺者が実体的に権利者となりますが、登記がない限り第三者には対抗できません。

  • 公正証書遺言によって包括遺贈を受けた場合、その人は被相続人の死亡と同時に**相続人と同様の権利(包括受遺者)**を取得します(民法990条)。
  • しかし、不動産の所有権は登記をしなければ第三者に対抗できません(民法177条)

つまり、実体的には受遺者が所有者であるにもかかわらず、登記名義を先に取得した法定相続人の方が、対外的には「権利者」とみなされやすくなります。


2.受遺者が権利を取り戻す方法(先行登記されてしまった場合)

1. 所有権に基づく登記抹消請求訴訟

  • 受遺者は実体上の所有者であるため、法定相続人名義の登記を「不当利得」として抹消請求することができます。
  • これは「自己の所有権に基づく登記抹消請求訴訟」と呼ばれます。
  • 訴訟にあたっては、公正証書遺言および被相続人の戸籍・除籍謄本などの書類を揃えて、受遺者に権利があることを証明する必要があります。

2. 遺産分割協議が行われている場合、その無効の主張

  • 包括遺贈の対象となっている財産は、遺産分割の対象外です(判例あり)。
  • それにもかかわらず、相続人が遺産分割協議によってその不動産を自分のものとし、登記していた場合、その協議は無効または不当利得となり、無効確認や取消しを主張できます。

3. 損害賠償請求(やむを得ない場合)

  • 法定相続人が悪意(事情を知ったうえで)で登記し、善意(事情を知らない)の第三者へ売却等してしまった場合、受遺者は登記回復が困難となるため、損害賠償請求を検討せざるを得ません。

3.トラブルを免れるために受遺者が取るべきだった行動

受遺者は、以下のように行動していればトラブルを未然に防げた可能性が高いです。

1. 被相続人の死亡後、速やかに登記手続を行う

  • 包括遺贈の場合、特段の「遺贈の承認」手続を要しません(放棄は別)。
  • 死亡後速やかに公正証書遺言に基づき、法務局に対して所有権移転登記を申請することが最重要です。
  • 必要書類には以下が含まれます:
    • 公正証書遺言の正本または謄本
    • 被相続人の出生から死亡までの戸籍
    • 住民票の除票(被相続人)
    • 固定資産評価証明書など

2. 法定相続人に対して遺言の存在と内容を早期に通知する

  • 法定相続人に「遺言であなたの相続権は制限されている」と伝えないままにしておくと、相続人が無意識のうちに登記してしまうリスクが高まります。
  • 書面や内容証明郵便など記録の残る手段で通知しておけば、後のトラブルにも備えられます。

3. 専門家に相談する(行政書士・司法書士・弁護士)

  • 登記手続や通知、さらには訴訟対応において、専門家のサポートを受けることで、対応の遅れやミスを防止できます。

4.補足:包括遺贈の特殊性

  • 包括遺贈は相続に準じる性質があるため、**相続放棄の規定(3ヶ月以内の意思表示)**が適用されます。
  • つまり、「受け取ることにより不利益になる場合には、家庭裁判所への申述により放棄も可能」である一方、一度受けると相続人に準じた地位を持ち、債務も引き継ぐ点には注意が必要です。

まとめ

問題解説
登記が相続人に先行された場合実体的権利は受遺者にあるが、登記がないと第三者に対抗できない
取り戻す方法登記抹消請求訴訟/遺産分割無効の主張/損害賠償
予防策速やかな登記申請、相続人への通知、専門家相談


上記については不動産登記を巡る典型的なトラブル事案についての注意喚起内容でしたが、その他にも税務申告等、他にも様々な事柄について、速やかな手続きを行わなかったことにより被る代償は大きくなると言えるでしょう。
遺言の執行手続きを速やかに行うことはとても重要ですので、専門的なアドバイスをいただきたい場合は当オフィスにいつでもご相談ください。

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